『ハンチバック』で思い出した、とあるひどいこと

第169回芥川賞をとった
市川沙央さんの
「ハンチバック」を読んだ、と言うか聴きました。

普段あまり文芸作品を読まないのですが
重度障がいのある方の
初めての芥川賞受賞ということで

本人も意識的に発言し
特に周辺報道でたびたび流れていた
この一節が

私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に買いに行けること、――5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた。その特権性に気づかない『本好き』たちの無知な傲慢さを憎んでいた。

無知な傲慢さを持つ一人として
気になっていました。

そうしたら、AmazonAudible
(オーディオブック)に
ラインナップされているではありませんか。

オーディブルは
いわゆるサブスクリプションです。

話題の新作でも定額で聴けます。
(一部例外あり)

本を両手で開いてページをめくって読む
ということが困難な人もいるという
作品のメッセージ故のラインナップかな

と思って聴いてみましたところ

別に読書がメインのテーマじゃなかった。

ネタバレはやめときますので
気になる人は読むなり聴くなりしてね。

さて、僕の身近なところで
登場人物は少しぼやかしますが
こんな話がありました。

高齢の母親と足の不自由な娘の
二人暮らしです。

区画整理によって家が
移転されることになり

新築したその家は
二階建てでした。

二人とも階段は苦労する身体で
かつ十分な土地の広さがあるのに。

そしてトイレには
男性用小便器が設置されていました。

家の新築時には僕は
関わっていなかったので
完成して初めてみて驚きました。

移転補償金が出るから
ここぞとばかりに建築業者が
あれこれ突っ込んでしまったようです。

もちろん、最終的には契約する
住まい手がOKを出しているわけですから
法的に問題があるわけではありません。
(多分。細かいところは未確認)

いわゆる社会的弱者で
でもお金は持っていて

というのは、『ハンチバック』にも
通じるところがあります。

そういうシチュエーションの時に
周囲の人はどういう態度を取れるのか。

もし、あなたの経営する工務店に
お金はあるのでよろしくお願いしますと
足の悪い母娘が来たら

ここぞとばかりにあれこれ突っ込んで
受注単価を上げようとするのか

相手の身になって必要なことを
提案してあげられるのか

当然後者ですよね
と言いたいところだけど

健常者がお金はあるので
おまかせで、ときたら
きっとあれこれ突っ込んじゃいますよね。

じゃあ社会的弱者には
別の態度を取るのがいいのか悪いのか…

これも無自覚な特権性なのか…

と、なんだかモヤモヤした気分が
晴れずにいます。

もっとも、文芸作品は
自己の内面と照らしあわせることに
価値があるだろうから

モヤモヤしてくれれば著者も本望では。

書籍も96ページと短いし
オーディブルでも等倍速で
1時間50分の短い作品なので

夏休みの読書にいかがでしょうか。

市川 沙央 (著)