読書『建築家は住まいの何を設計しているのか』

元『建築知識』編集長の
藤山和久さんのweb連載を
まとめた本

『建築家は住まいの何を設計しているのか』

確かに実名・匿名で
多くの建築家が登場します。

でも建築家論、というより
住宅設計論、かな。

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地域をよくする工務店を
応援するネットワークの
佐塚です。

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「天井の低さ」について
伊礼智さんに色々と
たずねています。

この本はもともとweb連載
されていたもので
建築のプロ向けではありません。

ですから「天井は高いのがいい」
という社会の常識的視点を
建築家にどう考えているかを問うのです。

僕が印象に強く残ったのは「動線」

お施主さんが、動線が長い・短い
効率が良い・悪いにこだわりすぎ
ではないかという話。

冷蔵庫からレタスを取り出す時
シンクから冷蔵庫まで
一歩で行けるか三歩かかるのか

数字だけを見れば一歩の方が
いいに決まっているけど
正解は、「どっちでも構わない

ところが移動距離が短いのが
正義! という人にとって
三歩は許容できないのだと。

そして建築家も

導線が効率的な間取りと
少しだけ遠回りするけど
その分楽しさがます間取りの
どちらが良いですか

などとは聞きません。

効率主義の施主だと思えば
効率的の方が採用されるに
決まっているので。

これを助長しているのが
インターネットであり
ブログであると。

施主ブログやら
ルームツアーやらで
動線動線と連発されています。

そうすると動線が長い家は
ダメなように見えるのかも。

通販サイトのレビューに
代表されるレビュー社会に
すっかり浸ってしまうと

極度に損を恐れ
☆5で表される先達の
経験が心地良い…

だからネットに正解が
あるような気がしてしまう。

設計提案に対して
「ネットで調べてメールで返事をします」

っていうこと、工務店の皆さんも
経験しているのでは…。

本書にも多くページが割かれているように
施主は建築時にイメージできること
までしか要望してきません。

さらにその先をどう考えて
うまく提案に落とし込むか。

設計者の職能は
まさにそこにあります。

『エアコンのいらない家』の
山田浩幸さんのお話も。
(同書の編集も著者による)

住まいの環境は
「温度・湿度・気流・輻射
などの総合的なデザイン」
で決まります。

でも、これを証明する
数値が存在しません。

見えないものをまだ
全て数値化できないのが
今の建築技術です。

全てが見えないなら
ある領域から先は
設計者の経験と勘の世界。

山田さんは

「設計は私の感覚でやりますけど、それでもいいですか?」

とたずね、それでお願いしたい
という人の家だけを
全力で設計しているそうです。

これは今の住宅業界において
主流のやり方ではないかもしれません。

ですが僕は思いっきり支持します。

最後に印象に残った一文を。

若い建築家が設計した住宅を見に行って
いかにも建築家っぽい仕事だけをして
悦に入っているなと感じたら
遠慮なくこう言ってやります。
「まるで建築家が設計したみたいな家じゃんか!」
いやーな顔をされますよ!

「住むための設計」になっているか
常に自問自答せよ! という
強烈なメッセージです。

建築家というより
あらゆる住宅設計者に
お勧めします。