『今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる』から


「新書」というのは
サクッと読めて価格も安い

というのは昔の話で
今や1000円を上回るものが多く
700ページ越えなんていう大作もあります。

書籍離れが進んでいる
とはいうけれど、むべなるかな…

そういう現状もありながら
一方で「教養ブーム」もあって

生まれてきたのが
「現代新書100(ハンドレッド)」
だそうです。

100ページぐらいで
教養が身についちゃうなら
読んでみようではないですか。

『忘れられた日本人』で知られる
民俗学者の宮本常一の解説本
『今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる』

宮本は昭和初期から後期まで
全国を渡り歩いて各地の民俗を
研究してきた人です。

『忘れられた日本人』の刊行は
1960年。主に1950年代の
フィールドワークの結果です。

宮本はこんなふうに書いてたよ
こんなふうに考えてたみたいだよ

という本です。

民俗学というのは元来
建築とゆかりが深いものです。

「民家」は民俗学でも研究対象だし
建築についても言わずもがなですね。

直接、建築の話ではありませんが
宮本の父・善十郎から託された
10ヶ条のいくつかが紹介されています。

汽車に乗ったら窓から外をよく見よ。田畑に何が植えられているか、育ちが良いか悪いか、村の家が大きいか小さいか、瓦屋根か草葺きか。駅に着いたら人の乗り降りに注意し、どういう服装をしているかに気をつけ、駅の荷置場にどういう荷がおかれているかをよく見よ。そういうことでその土地が富んでいるか貧しいか、よく働くところかそうでないところかがわかる。

土地が富んでいるか貧しいか、というのは
今はあまり気にすることがないように思います。
(地価が高い、安いとは違います)

自給の時代だったからこその
着眼点ですよね。

金があったら、その土地の名物や料理はたべておくのがよい。その土地の暮らしの程度がわかる。

今も旅行先では多くの人が名物を
食べているでしょうけれど
「暮らしの程度」を見るためではない。

人の見のこしたものを見るようにせよ。その中にいつも大事なものがあるはずだ。あせることはない。自分のえらんだ道をしっかり歩いていくことだ。

これまた示唆に富んだお話。

そして、10ヶ条ではありませんが
一軒の家が保有する「民具」の量や種類で

自給度や他の地区とのつながりが
明らかになったり

技術の伝播や発達を見たり
することができる
としています。

今、私たちが作り、暮らしている家に
こういう背景があるだろうか…

金さえ出せば日本全国どころか
全世界からモノを手に入れられるし

地のもの、民具に相当するようなものは
一つもない、という家が
ほとんどではないでしょうか。

そんな中、地元の木や土などの
素材を使って建てる家というのは
やっぱり現代の「民家」と
言えるのではないか。

建築の地域性というのは
最近ほとんど温熱環境ぐらいでしか
語られないようになってきています。

でも、真の地域性というのは
それだけじゃないような。

どこに建ってもおんなじ家じゃ
ちょっと寂しい。

この本や、宮本の著作に
直接の答えは出ていませんが

「歴史は庶民がつくる」のなら

庶民の家という
場所を作る仕事もまた
歴史作りってことですね。

誇りをもっていこう!