なんで名前を変えたくなるのか

ガッツ石松さんが亡くなった。本名は鈴木有二。本名より芸名のほうが知られている人だった。工務店も「〇〇工務店」から「〇〇ホーム」へ名前を着替えたくなることがある。なぜ名前を変えたくなるのか、変える前に決まっているのは何か、という話です。


鈴木有二さん。

亡くなったそうです。
といっても、「誰、それ?」ですよね。

元プロボクサーのガッツ石松さんの本名です。
WBC世界ライト級チャンピオン、引退後は「OK牧場」のあの人。

不思議なもので、「ガッツ石松」と言われたら全員わかるのに、「鈴木有二」だと、ほとんどの人が「誰?」になる。
本人の本物の名前のほうが、知られていないわけです。


芸名と本名。

表に出ている名前と、戸籍に載っている名前。
この二つがズレている、というのは、芸能の世界では当たり前の話です。

でも、これって商売の名前でも、わりとよくある構造なんですよね。
(ここで工務店の話に引っぱるの、強引かな…まあいきます)


工務店でも、似たことが起きます。

「株式会社〇〇工務店」が「△△ホーム」を名乗っている、ってこと、よくあります。

「工務店」という三文字を、できれば外したい、のだろうか。

気持ちはわからないでもありません。この前も書いたけど、「工務店」って、言葉のイメージが結構幅広いので、お客さんに与えるイメージも、相手によってずいぶん変わってしまうかもしれないので。

ガッツが鈴木有二を出さなかったのと、ちょっと似ている?
いや、ちょっと違うか。鈴木有二は元から表に出ない名前で、工務店は、表に出ている名前を着替えたい、って話だから。

共通するのは、「この名前のままだと、伝わってほしいものが伝わらない」という感覚のほうかな。


ここで毎度の問いです。

表の名前と、本体の名前は、同じがいいのか、違うのがいいのか。

同じなら、わかりやすい。
登記簿の名前と、看板の名前と、名刺の名前が一致していると、迷いがない。お客さんも混乱しない。

でも、本体の名前に引きずられたくない時には、別の名前が要る。

鈴木有二のままリングに上がっていたら、あのキャラクターは立っただろうか。
「ガッツ」という、ねじ込まれた一語があったから、あの語録もガッツポーズも生まれた。
ガッツ鈴木ではなく、ガッツ石松、ってのがまたいい。

名前を変えるって、客層や立ち位置ごと変える、ということなんでしょうね。

(ガッツレンタカーも訃報出してたけど、これからキャラクターはどうすんのかな…とか、余計なことも考えてました。
ちなみに運営会社は株式会社ガッツ・ジャパン)


じゃあいっそ社名を変えればいい、という話になるんですが。

これが、めんどくさい。

登記、銀行口座、各種契約、名刺、封筒、看板、車のロゴ……。
一個変えると、芋づる式に全部が動く。考えただけで胃が痛い。
何より、過去のお客さんへの説明……というか、納得が、実は結構難しい。

だから、登記はそのままにして、「屋号」という軽い表の名前のほうで調整する。
本体は動かさず、表札だけ掛け替える、みたいな知恵です。

ブランディングとかを商売にしている人にとっては、芋づる式に仕事が出てくるので、美味しい話ですね〜。
カモられてたりしない?


ただ、ここで思うのは。

ガッツ石松のすごみは、「ガッツ」という名前そのものじゃない、ということです。

「OK牧場」も「幻の右」も、5度の防衛も、名前に紐づく中身が、ちゃんと先にあった。
弱いボクサーだったら、ここまで「ガッツ」として残れたでしょうか。

名前は、その中身を引き出すための、ねじ込まれた一語でしかない。
だから、「〇〇ホーム」も、中身が追いついていなければ、ただの表札の掛け替えで終わってしまう。

逆に言えば
「〇〇工務店」のままでも、「あそこといえば、アレだよね」が一個あれば、名前は後からついてくる気もします。
その「アレ」が、あるかどうか。

名前を着替える前に、その名前に何を背負わせるか。重要なのは、たぶんそっちかな〜


ちなみに僕の「カタリスト」も、名前だけ言っても通じません。個人事業主の屋号で、「語りスト」と触媒(Catalyst)の造語です。

(まあ、たいてい「は?」って顔をされるやつです)

でも、名前で説明するのは早々にあきらめて、何をする人か、で覚えてもらえればいいかな〜と思っています。
名前は、その入口くらいでちょうどいい。


ガッツ石松さんは、最後までガッツ石松のままでした。

本名を知らなくても、誰も困らなかった。
表の名前が、本体をとっくに追い越していた。

名前を変えるかどうかで悩む前に、その名前で何を思い出してほしいのか。
順番としては、そっちが先なのかもしれないな〜、なんてことを、訃報を見ながら考えていました。

ご冥福をお祈りします。